本記事は、うつ病患者の家族向けコミュニティサイト「エンカレッジ」と、精神障がいを抱えた親とその子どもを応援するNPO法人「ぷるすあるは」のコラボ記事です。
親や配偶者、子どもやきょうだいなど、自分の家族がうつ病と診断された方たちの中には「本人の判断で薬を飲まなくなってしまう」「治療の途中で通院をやめてしまう」と悩んでいる方も存在します。服薬・通院を医師の指示なくストップされてしまうのは、身近で接しているご家族にとって不安が大きいでしょう。
服薬や治療を中断された場合、ご家族はどのように対応すればいいのでしょうか?今回は、通院や服薬をご本人が中断したときの対応について、臨床心理士がお話しします。
ご家族が、うつ病と診断された。
それだけでも心配なのに、治療の途中で通院をやめてしまったり、服薬をやめてしまったとしたら、ご家族の心配はいかほどのものか。想像すると胸が痛むばかりです。
うつ病を抱えた方が、治療の途中で通院や服薬を拒否するケースは少なくありません。その際、ご家族はどんなことができるでしょうか。
病院やクリニックでの治療を途中でやめてしまうのには、いくつか理由が考えられます。主に考えられる理由を、4つ解説します。①〜④のそれぞれの対応については記事後半でお伝えしているので、ぜひ参考にしてください。
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主治医の先生に言われて薬を飲んだのに、体調の回復を感じられない
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薬を飲む意味があるのかわからない
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いつまで薬を飲めばいいのかわからない
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やっぱり病気ではなく、自分の意志の問題ではないだろうか
など、ご本人のこころの中では、さまざまな心配と不安がうずまいていると想像されます。
治療に対して疑問を抱えている中で、体調の回復をご本人が感じられないことで「やっぱり薬を飲む意味はないんだ」と、服薬や治療を中断してしまうのかもしれません。
個人差はありますが、うつ病の治療で服薬を続ける中で、薬の副作用を感じる方もいます。
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薬の効果よりも先に、吐き気や下痢などの副作用が出てきてしまった
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薬を飲み続けることで、体に悪い影響が出るのではないかと不安になる
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インターネットの情報で、副作用について書かれた内容をみて怖くなった
など、薬の服用にまつわる不安も、通院や服薬の中断につながります。
病気の症状が強く出ているときは、
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通院のために起きる
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身支度をする
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外出する
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服薬の管理をする
など、体調が安定しているときはこなせる行動が強い負担になる可能性があります。
治療のために薬を飲んでいる方であれば、目が覚めたときに薬の影響が残っていて、なかなか起きられないこともあるかもしれません。
体調が悪化しているときは医師の指示に従い服薬や通院をしていた方も、体調が安定するとともに、治療を中断してしまう場合があります。
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つらかった症状が回復してきたので、後は自力でなんとかなるかもしれない
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風邪のときのように、薬を飲まなくても安静にしていればよくなるだろう
一番つらい時期を乗り越えたことで、安心して「もう治った」とご自身で判断してしまっているのかもしれません。
服薬や治療をやめてしまうその他の理由としては、以下のものが考えられます。
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主治医との相性が合わないと感じている
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もともと「頼る」ことが得意ではない
周囲に頼ることが好きではない方だと、ご本人しか気づかない些細な出来事でも、治療をはねつけたくなるのかもしれません。
うつ病は、不安や否定的な考えがおこりやすい病気です。治療に対して、不安やネガティブな考えが浮かんでいてもおかしくはないでしょう。
治療や服薬を中断したご本人に対して、ご家族が「理由を正確に聞き出そう!」と意気込む必要はありません。ただ、ご本人の気持ちを想像することで、治療再開のヒントになる可能性はありそうです。
ここからは「通院や服薬を拒否する理由」でお伝えした4つの理由について、それぞれどのように対応すればいいのかをご紹介します。
治療や服薬の効果をご本人が感じていない場合は、治療の目安や見通しについて、あらためて主治医から説明してもらうことが望まれます。
ご本人への伝え方としては、
「なかなか効果が感じられないと、嫌になってしまうのももっともだよね。でも、このままの状態が続くとあなたも苦しいだろうし、私も心配だから、もう一度先生に現状を伝えて、治療について教えてもらわない?私も行くから」
など、ご本人の気持ちに寄り添いつつ病院に行くことをすすめてみるのはいかがでしょうか。
ご本人が再度病院に足を運び、かつ診察に同席することをご本人が許可してくれたら、ご家族から主治医に質問するのもいいでしょう。
「薬を飲んでも、変化がないように感じるのです。この先の治療の見通しや回復について、もう一度教えていただけますか?」
など、治療について率直に主治医に質問してみましょう。主治医にうまく伝えられるか心配な場合は、現在の症状や状態、聞きたいことを事前にメモして診察時に伝えたり、メモをそのまま医師に渡してもいいと思います。
薬の副作用がつらい場合は、どのような副作用がつらいのか整理するお手伝いを、ご家族が一緒にしてみることをおすすめします。
患者さまが「薬の副作用が気になる、つらい」と感じていることは、主治医にとっても治療を進めていくうえで大事な情報です。
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眠気が強い
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めまいを感じる
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のどが渇く
など、ご本人が気になっている副作用をまとめて、主治医の先生に遠慮なく相談しましょう。
薬の副作用については、薬剤師さんも相談にのってくれます。気になることがある場合は、薬剤師さんにも気軽に質問してみましょう。
1日の中で体調が悪くなる時間が固定されている場合は、比較的動きやすい時間に病院やクリニックの予約を取ることをおすすめします。
午前中は体が動かなくても、午後〜夕方ごろには体が動きやすくなる方もいらっしゃいます。ご本人と相談しながら、通院しやすい時間帯を探してみましょう。
体調が安定したことで服薬や治療を中断してしまう場合は、ご家族から見た客観的な事実を伝えてみるのもひとつの方法です。
「私から見ても、いちばんつらい時よりよくなってきたように見えるよ。でも、まだ◯◯(眠れていない、会社を休む、などの残っている症状)もあるし、本調子ではないように見えるから、治療は続けてほしいな」
また、ご本人の「もう治療は必要ない」という気持ちに寄り添い、治療を終えるタイミングについて主治医に確認を促すのもいいでしょう。
「再発することも多いと聞いているし、治療をやめてしまってまた前の状態に戻るのはつらいと思うから、先生にいつまで治療を続ければいいのか相談しに行こう」
ご本人がどうしても服薬や通院を拒む場合は、以下の対応も検討してみましょう。
ご本人の気持ちが変わり、その後受診に繋がる可能性も考えられます。ご本人の症状や変化についてメモしておくと、受診した際にスムーズに主治医に相談できるでしょう。
ただ、ご家族の負担が増えるのはなるべく避けたいところです。メモを取る場合でも、あくまで無理のない範囲に留めておきましょう。
ご本人の意向を尊重して、一度様子を見るのもひとつの方法です。その場合は、あらかじめ期間を決めておくと、ご家族にとっては先が見えて気持ちが楽になるかもしれません。
期間を定めた際のご本人への伝え方は、以下を参考にしてください。
「あなたの言う通り、様子をみてみましょうか。でも、◯日(3日〜1週間など)経って、もし症状がよくならないようだったら、病院(または相談しやすい相談先)に、なにかいい方法があるか相談してみよう」
「あなたの言う通り、様子をみてみましょうか。でも、次につらくて仕事に行けないことがあったら、そのときは病院(または相談しやすい相談先)に、なにかいい方法があるか相談してみよう」
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家族だけで、医療機関に相談する
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自治体の福祉担当、保健所、保健センター、精神保健福祉センターなどに相談する
ご家族が一生懸命に対応しても、ご本人の気持ちがなかなか変わらないこともあると思います。ご本人のサポートだけではなく、ご家族自身のケアもぜひ大切にしてください。
なにか困ったときや、迷うことがあったら、遠慮なく主治医や専門機関に相談しましょう。ご家族だけで抱え込まず、無理なく周りに頼りながら、日々を過ごしてくださいね。
エンカレッジ
三瓶真理子(EASE Mental Management代表カウンセラー、臨床心理士)
医療機関(精神科・心療内科)、大手EAPプロバイダー、上場企業の専属臨床心理士を経て、働く人と企業のメンタルヘルス相談をおこなっています。