就労移行支援事業所って?受けられる支援や利用方法についても詳しく解説

就労移行支援事業所とは、一般企業などへの就職を目指す障害のある方が、働くために必要な知識やスキル向上のためのサポートを受けられる通所型の福祉サービスです。就職に役立つ知識や必要なスキルを学べるほか、支援員が就職や体調に関する相談に乗ってくれます。

「就労移行支援事業所はどんな人が利用できるの?」
「利用するメリットは?」
「利用にはどんな手続きが必要なの?」

こんな疑問を持っている方に向けて、就労移行支援事業所についてわかりやすく解説します。

日本には、障害のある方の社会参加をサポートする障害者総合支援法という法律があります。その法律に基づき、障害のある方の就労を支援するサービスが「就労移行支援」。就労移行支援を受けられる通所型の施設が、今回解説する「就労移行支援事業所」です。

就労移行支援事業所は全国に約3300ヵ所以上あり、それぞれが各地方自治体から指定を受けてサービスを提供しています。利用者一人ひとりに合わせて作ったきめ細かい支援計画に沿って支援が行われるのが特徴で、就職に役立つさまざまな知識・スキルを身に着けることができます。

就労移行支援事業所では、一般企業への就職に向けたトレーニングやサポートを受けられます。職業訓練では希望する職種に必要な知識と能力のほか、体調管理の方法やコミュニケーションスキルなど、長く安定して働くためのコツも習得できます。

さらに、支援員が履歴書や応募書類の添削、模擬面接を行ったり、適性に合う職場探しのアドバイスをしたり、企業における職場実習の機会を設定したりと、多方面から就職活動をサポートしてくれるのも特色です。

就職後も、就労移行支援事業所のスタッフが仕事についての相談に乗ってくれたり、企業に対して環境調整を依頼してくれたりと、職場定着のためのサポートを行っています。

就労移行支援事業所を利用できるのは、次の4つの要件を満たした人です。

①一般企業で働くことを希望している

就労継続支援A型やB型など、福祉的な支援を受ける就労を目指す場合は就労移行支援の対象にはなりません。

②身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある

就労移行支援事業所の利用に、障害者手帳は必須ではありません。手帳を持っていなくても、自治体の判断によって利用できることがあります。その場合は主治医の意見書等が必要です。また、自治体によって見解は異なりますが、自立支援医療受給者証を持っていれば利用できる場合もあります。

③18歳以上で満65歳未満
④離職中である

就労移行支援は就労を目的としたサービスのため、働きながら利用することができません。通所期間中はアルバイトも基本的には認められていないため注意しましょう。ただし、例外的に認められる場合もあるため、どうしてもアルバイトをする必要がある方は自治体の窓口や通っている事業所に相談してみましょう。

休職中も就労しているとみなされるため、基本的には就労移行支援事業所の利用はできません。ただし、次の要件をすべて満たす場合は利用が可能になります。

1)当該休職者を雇用する企業、地域における就労支援機関や医療機関等による復職支援(例:リワーク支援)の実施が見込めない場合、又は困難である場合

2)休職中の障害者本人が復職を希望し、企業及び主治医が、復職に関する支援を受けることにより復職することが適当と判断している場合

3)休職中の障害者にとって、就労系障害福祉サービスを実施することにより、より効果的かつ確実に復職につなげることが可能であると市区町村が判断した場合

引用:厚生労働省社会・援護局「平成30年度障害福祉サービス等報酬改正に関するQ&A」

▼就労移行支援を受けられる障害の例

精神障害 統合失調症、うつ病、双極性障害、不安障害、適応障害、てんかん、アルコール依存症など
発達障害 注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、広汎性発達障害など
身体障害 難聴・聴覚障害・視覚障害・肢体不自由・内部障害など
知的障害 知的障害など
その他難病 障害者総合支援法の対象となる難病等の疾病

就労移行支援事業所の利用料金は、世帯の所得に応じて自己負担額が設定されています。一か月に利用したサービス量にかかわらず、所得に応じた上限を超える負担は生じません。

▼利用者負担額の区分

生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯 ※1 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満 ※2)

入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム・ケアホーム利用者を除く ※3
9,300円
一般2 上記以外 37,200円

※1…世帯全員が住民税非課税の世帯。住民税非課税となるのは本人が未成年者、障害者、寡婦または寡夫に該当し、前年の合計所得金額が125万円以下(給与収入なら204万4千円未満)の人、もしくは前年の合計所得金額が各地方自治体の定める額以下の人。

※2…収入が概ね600万円以下の世帯。

※3…入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム、ケアホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合「一般2」に含まれる。

なお、就労移行支援事業所の通所にかかる交通費は、自治体によっては補助が出る可能性があります。利用料金の自己負担額がいくらになるか、交通費の補助があるかを知りたい場合は、お住まいの市区町村の障害福祉課などに問い合わせてみましょう。

就労移行支援事業所の利用期間は、最長でも原則2年間と定められています。

ひと月に利用できる日数には下限はありませんが、上限は利用を開始時に自治体から発行される「障害福祉サービス受給者証」に記載されています。例えば「10日」と記載されていれば、ひと月に10日まで就労移行支援サービスを利用できます。

あくまでひと月の利用上限が決まっているだけのため、利用頻度は利用者によってバラつきがあります。最初は週2日程度の通所から始め、徐々に日数を増やして就職直前には週5日程度の通所にシフトするという人もいます。

就労移行支援事業所を利用すると、障害者就労に詳しいスタッフに就労に向けた専用プランを立ててもらえたり、スキルアップ研修やトレーニングを受けられたりすることで、希望する職種への就労がスムーズになります。

さらに、通所によって自分の障害との付き合い方や健康管理の方法がわかるようになることで、安定的に働くスキルが身につくというメリットも。就職後は定期的に職場定着サポートを受けられるので、不安な点があっても安心です。

ただし、通所期間中は基本的にアルバイト等の就労ができず、就業準備に専念しなければなりません。また、就労移行支援事業所は求人紹介を受けられる場所ではないため、実際に求人を探すときはハローワークや人材紹介会社の利用が必要です。

とはいえ、就労移行支援事業所が設けた企業見学や企業との座談会、企業実習などの機会から就職につながることも少なくありません。就労移行支援事業所を利用したいと思ったときは、これらのメリット・デメリットを考慮したうえで判断しましょう。

就労移行支援事業所を利用したいときは、次のような流れで手続きを行いましょう。

1.どの事業所に通うか検討する

通所する事業所は自分で選択できます。お住まいの市区町村の障害福祉課などの窓口のほか、通院先の主治医やケースワーカー、障害者就業・生活支援センター、就労支援センター、相談支援事業所、ハローワークなどの専門機関に相談し、情報収集しましょう。

市区町村の窓口には、各事業所の所在地や特徴を一覧にした冊子を置いていることもあります。また、各事業所の情報をまとめた就労移行支援事業所専門の検索サイトを利用するのもひとつの方法です。

●自分に合った就労移行支援事業所の選び方
事業所を選ぶときは、次のようなポイントをチェックしましょう。

・所在地
体調があまり良くない、バスや電車が苦手といった場合は、自宅から通いやすい立地であることを重視するといいでしょう。

ある程度体力があり、通勤の練習をしたい場合は、あえて乗り換えが必要な場所にある事業所を候補に入れてもいいかもしれません。事業所によっては、駅と事業所間の送迎サービスが利用できることもあります。

・事業所の特色
発達障害や精神疾患のある人のサポートに特化した事業や利用者を女性に限定した事業所があります。また、精神保健福祉士や看護師といった資格を持つスタッフがいる事業所も。ご自身の特性や希望に合ったところを選びましょう。

・訓練プログラムの内容
事務職、製造業、接客、デザインなど、事業所によって強みとするプログラム内容は異なります。希望する職種が決まっている方や伸ばしたいスキルがある方は、プログラムの内容にも注目してみましょう。

・就職実績や定着実績
就職実績の多い職種や職場への定着率を公開している事業所もあるため、Webサイトやパンフレットをチェックしてみましょう。

2.見学・体験通所

気になる事業所が見つかったら、電話やメール、Webサイト経由で問い合わせし、見学の予約を取ります。見学は多くの事業所で事前の予約が必要です。

見学ではスタッフからサービスの説明を受けられるほか、実際のトレーニング風景を見ることもできます。また、就職に関する相談に乗ってもらうことも可能です。その事業所に通うことで就職に対して抱えている不安を解消できそうか、じっくり考えてみてください。

事業所には、トレーニングや就職支援メニューを無料で体験できる「体験通所」という制度もあります。体験通所の内容や日数は事業所によって異なるため、事前に確認しましょう。

3.就労移行支援の利用を申請する

申し込みたい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉課などの窓口で、障害福祉サービス受給者証の申請書を提出します。詳しい手続きの方法は市区町村ごとに異なるため、窓口に問い合わせてみてください。

申請書提出後は、担当者による認定調査が行われます。利用希望者の生活状況や働く意欲を確認するための面談が実施されます。

認定調査の内容と、相談支援専門員が作成したサービス等利用計画案によってサービス利用の可否が判定され、サービス利用が認められると障害福祉サービス受給者証が発行されます。障害福祉サービス受給者証が発行されたら、事業所と個別の利用契約を締結します。

事業所との契約締結後は、希望する就労を実現するための支援メニューやプログラムを支援員がまとめた「個別支援計画」が作成されます。

個別支援計画が希望に沿ったものかどうかは、利用開始時にご自身で確認できます。もし不明点があれば、早めにスタッフに伝えましょう。また、個別支援計画の内容は3か月ごとにスタッフが見直しを行います。

利用開始後はまず、次のようなトレーニングを受けることになります。

●一般企業で働くために必要なビジネスマナーや就職活動の研修
●事業所が強みとする障害分野・就職分野のスキルアップ研修

また、それぞれの利用者の障害特性に応じたアドバイスをもらうこともできます。

例)
・配慮の伝え方
・服薬・睡眠・食事等の生活リズムの安定
・体力向上
・報告・連絡・相談
・悩みを抱え込まない対策
・認識のズレを防ぐスキル

生活や健康面、コミュニケーション、業務遂行面での課題や必要な配慮が明確になり、工夫して対処する方法を学べることで、就職後も安心して働けるようになります。

就職に必要なスキルや障害への対応策を身に付けたら、いよいよ就職支援がスタート。キャリアカウンセリングや応募書類添削、面接練習といったサポートを受けながら就職活動を進めます。また、企業実習によって就職後のイメージを掴む機会も用意されています。

無事に就職が決まったら、就労移行支援事業所を卒業します。ただし、就職後も職場定着支援を利用でき、事業所が定期的な面談や職場への環境調整の申し出を行ってくれます。

<監修>

金原 祐介
社会福祉士、公認心理師
株式会社ココルポートの就労移行支援事業所にて就労支援員として携わり、現在は同法人の管理本部でコンプライアンス推進に係る業務を行う。

<執筆>

小晴(https://koharu0401.amebaownd.com/