本記事は、うつ病患者の家族向けコミュニティサイト「エンカレッジ」と、精神障がいを抱えた親とその子どもを応援するNPO法人「ぷるすあるは」のコラボ記事です。
夫や妻がうつ病と診断されて、心身の回復のために会社を休職。「焦らずに休んでほしい」と願いつつも、休職中の生活費や医療費に対して不安を感じる方も多いでしょう。
今回は、休職の仕組みと休職中に利用できる制度について、また休職中にご家族ができることを、企業専属の臨床心理士としての経験を持つ専門家がお話しします。
うつ病と診断されたパートナーが休職に入った際に、ご家族からのご相談で多いものが休職の仕組みや休職中に利用できる制度、休職中の生活への不安についてです。
●
パートナーの会社の制度(休職期間や、休職中の手当や補償など)がわからない
●
パートナーに聞いても「大丈夫」としか言わず、生活の目処が立てられない
など、ご家族側でどう対応すればいいのかわからず、悩んでしまうことも多いようです。
うつ病を抱えているご本人が話を拒む理由としては、いくつかのことが考えられます。
●
「家族に心配をかけたくない」と、あえて話さないようにしている
●
体調が悪化していて、込み入った話をする余裕がない
ただ、利用できる制度があるなら、その後の生活のためにご家族として知っておきたいですよね。
「本人の代わりに対応したいけど、配偶者の会社の情報が入ってこない」。そんなとき、ご家族はどのようなことができるのでしょうか。
一般的な会社では、病気欠勤制度や休職制度が就業規則で定められています。勤めている会社にもよりますが、一定期間の病気欠勤を経てから休職に入る流れも多く見られます。
休職制度とは、業務外の理由で一時的に労務提供ができない際に、これまでの会社に対する貢献度を考えて、将来的に復帰する見込みがあれば解雇を一定期間猶予する制度です。
休職制度がある会社では、就業規則や休職規定に、以下のような内容が記載されています。
●
どのような場合に休職となるのか
●
休職期間はどれくらいか
●
職場復帰する際の基準と、復職の手続き
●
休職期間中に復職できない場合の措置
会社にもよりますが、病気欠勤中や休職期間中は、給与や賞与は支給されないことも多いでしょう。その分を補填するために、加入している健康保険組合などから傷病手当金が支給されます。
就業規則とは、賃金や労働時間、休日や休暇などの労働条件や、服務に関することなど、労働者が守るべき規律を定めているものです。
労働者を常時10人以上雇用している会社は、就業規則の作成と届出が原則として義務づけられています。
休職中の生活費を補填するための仕組みとして、加入している健康保険組合などから支給されるものが、傷病手当金です。
傷病手当金とは、健康保険の加入者が病気やけがで働けなくなり、給与がもらえない場合に、手当金を受け取れる制度です。
●
受け取れる期間:1年6か月間
●
受け取れる金額:給与の約3分の2相当
健康保険や会社の制度によって、支給期間や金額などが異なる可能性もあります。加入している健康保険組合や会社に問い合わせてみると安心でしょう。
なお、令和4年1月1日から傷病手当金の支給期間が変わりました。詳しく確認したい方は、厚生労働省のこちらのページを参考にしてください。
ご家族が休職制度について確認したい場合は、休職中のご本人か、もしくはご本人がお勤めの会社に確認する必要があります。
ご本人に確認するときは、体調がよさそうな時間帯を見計らって声をかけることをおすすめします(午前中は、体調が優れない方も多いです)。
●
「会社からどれくらい休めるか聞いている?」
●
「なにか資料はもらった? 資料をもらっていたら、私にも見せて」
など、ご本人が情報を持っているか確認してみましょう。
ご本人から「大丈夫だよ」「自分でやるよ」と拒否された場合は、
●
「私がこの先の計画を立てるために知りたいから、確認したいんだ」
●
「私があなたを支えるために適切な対応をしたいから、教えてほしい」
と、自分を主語にして伝えてみるのもひとつの方法です。
ご本人から「会社から資料を貰っていない」「なにも聞いていない」と言われた場合は、ご家族から会社に問い合わせても構いません。
会社に電話やメールをする前に、事前に「会社に聞いてみるね」とご本人に伝えるようにしましょう。その際に、休職中の問い合わせ窓口があるのか、ご本人に確認するといいでしょう。特に決まっていなければ、人事部門などに問い合わせるといいと思います。
個人情報の関係で「問い合わせの内容は、本人にしか伝えられない」と会社から言われる可能性もあるかもしれません。その際は、会社からご本人にメールや文書などで伝えてもらえないか、会社側に確認してみてください。
傷病手当金について確認する場合は、こちらも会社の人事部門に連絡するか、もしくは健康保険組合に直接問い合わせるのもいいでしょう。「病気でお休みしている◯◯の家族です。お休み中の制度(休職期間、休業中の手当や補償など)を確認したいのですが」などと伝えてみてください。
会社に問い合わせる際は、職場復帰の要件や、復職をする際に必要な書類なども合わせて確認しておくと安心です。
うつ病を抱えたご本人を近くでサポートしているご家族だからこそ、休職中の生活や復職後のことなど、気になる点は多くあるでしょう。病気の症状が悪化している中でも、ご本人の意見を聞いたり、先々のことを決断する必要に迫られることがあるかもしれません。
うつ病の症状のひとつに、判断力や思考力の低下があります。ご本人の意見を確認したいご家族側の気持ちはよくわかりますが、「どうするの?」「一緒に考えて」という伝え方だと、ご本人がつらくなってしまう場合があります。
ご本人の意向を確認したい際は、
「私は◯◯したいと思っているけれど、それでいいかな? よければ◯◯するし、よくなければあなたの意見を反映させて、一緒に決めていこう」
など、YES/NOで答えられる聞き方だと、ご本人も答えやすいかもしれません。
今後のことで判断を求められる場合は、ご家族だけで抱え込まずに、主治医の先生などに相談するのもいいでしょう。第三者からのサポートが得られると、ご本人だけでなく、ご家族も安心できるかと思います。
エンカレッジ
三瓶真理子(EASE Mental Management代表カウンセラー、臨床心理士)
医療機関(精神科・心療内科)、大手EAPプロバイダー、上場企業の専属臨床心理士を経て、働く人と企業のメンタルヘルス相談をおこなっています。