前回の記事「治験の基礎知識」で説明したように、治験とは国によって新薬を承認するために行われる、臨床試験のことです。
新薬は開発に長期間かけ、研究を重ねたのち、治験へとステップアップしていきます。そして、新薬を作る最終段階が治験だということが、前回の記事でわかっていただけたと思います。
治験とは何なのかがわかったものの、実際に治験を受けるとなるとまだまだ不安がある人も多いでしょう。
今回の記事では、そんな不安や疑問を解消するために、実際に治験を受けるときの治験のメリット・デメリットなどを説明していきたいと思います。
治験には不安を解消するため、また治験中の問題を解消するために、さまざまなバックアップ体制が敷かれています。
治験の途中で副作用が出た場合、状況に応じて、治験計画の見直しが行われます。
また治験後でも、自分の体調不良などが気になったときは、すぐに治験コーディネーターに連絡してください。不調が治験に起因している場合などは、国による補償が受けられるケースがあります。
そういった意味では、治験で発生した副作用の問題は、すでに承認が下りている薬によって起こった副作用よりも、主治医に相談しやすい環境にありますし、手厚く対応してもらえるとも言えるでしょう。
このように、副作用をバックアップする体制が整えられているうえに、さまざまな事情で途中で治験を辞退したくなったら、いつでもやめることができます。
前回の記事で紹介したインフォームド・コンセント(事前に説明を受けて、同意を経てから治験へ進む)の後でも、大丈夫です。
「同意書を書いてしまったら、その後は中断できないのじゃないか?」と思いがちですが、実際は、いつでも辞められます。
治験と通常の治療の場合とを比べた場合、大きな違いのひとつとして、治験コーディネーターの存在があげられるでしょう。
治験コーディネーターとは、治験に際し、サポートをしてくれる専門家であり、治験の各段階に立ち合い、治験をバックアップしてくれます。
インフォームド・コンセントと呼ばれる、事前の治験説明とその同意を行う医師との話し合いにも、治験コーディネーターは同席し、サポートしてくれます。
インフォームド・コンセントの後も、診察に際し事前に情報収集をして知らせてくれたり、診察とは別に治験コーディネーターによる症状聴取が30分くらい診察毎に行われ、治験を通してバックアップを行ってくれます。
治験の性質上、主治医の診察は、精神療法的な側面よりも、症状の確認と評価を客観的に行うことに重きを置くことが多いです。一方、治験コーディネーターによる症状聴取では、しっかりと時間をとってくれるので、その時間が治療的側面を帯びることになります。
そのような意味でも、患者にとって、治験コーディネーターの存在は重要なものになると言えるでしょう。
ここまでの内容で、いつでも辞められることがわかり、副作用に対してのバックアップも手厚く、治験コーディネーターという専門家も携わってくれるということで、漠然とした不安はだいぶ軽減されたのではないでしょうか。
続いて治験にまつわるメリットデメリットにはどんなものがあるのか、まとめてみました。
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担当医師と細かな相談ができる
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細かく検査を受けられる
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通院にかかる交通費や時間的負担に対する負担軽減費が支給される
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通常では使用できない薬を使用することができる
メリットは上にあげたように、通常の治療では受けられないような、検査や診察、服薬ができるという点が一番大きいでしょう。
承認が下りていない薬を試すことができる治験では、既存の薬ではあまり効果を感じられなかった患者さんが、新しい薬を試すチャンスを得る場だとも言えます。
また治療にかかる費用の一部が支給されるところもメリットでしょう。費用の点に関しては、この後さらに細かく説明していきます。
続いてデメリットを見てみましょう。
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指定の病院に通院しなければならない
治験は許可された病院のみで実施されています。現在通院している病院が治験実施病院でない場合は、治験実施病院に転院することになります。
治験が終了してから元の病院に再び転院することはもちろん可能ですが、治験を行っている間は、指定された病院のみに通院することになるので注意が必要です。
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診察に時間がかかる
通院に関する手間がかかるのもデメリットでしょう。
治験を始める前に、先ず事前検査を受け、治験の条件を満たしているかの確認が必要です。
また治験が始まってからは、治験のバックアップ体制がある指定の病院に通わなくてはいけません。副作用や薬の効果を確認する検査があるため、一回の通院での所要時間が延びる可能性も高いです。
ただし、治験によっては3ヵ月で15回の通院など、短期の指定のものもあり、負担が短期間で終わるケースもあります。
実際に治験を受けようと考え始めたら、気になるのが費用の問題。なんとなく、費用は掛からなそうに思えますが、実際はどうなのでしょうか?
実は、治験を受ける際の費用は、無料部分、自己負担部分、負担軽減費として製薬会社から支給される部分の三つの部分に別れています。
治験の期間中の検査費と一部の薬の費用は無料となります。
その一方で、初診料や診察費などは、患者さん自身の負担になります。
通常、治験薬は製薬会社によって無料で提供され、その他の治療費も負担してもらえます。
ただし、治験以前から飲んでいた処方薬が同じように飲み続けられるかは、治験の条件によって異なり、多くの場合制限されるので、募集のときの注意書きをしっかり確認しておきましょう。
例えば「睡眠薬は週に3回まで、マイスリーやルネスタのみ許可する」といった条件が課される場合があります。
そして、これらの費用の負担とは別に、治験に伴う通院の交通費や時間的制約によって生じる負担に対して、「負担軽減費」として一定額の支給があります。
「負担軽減費」のおおよその金額は、一通院あたり7,000円~10,000円程度のようですが、大々的に明示すると、金銭誘導になりかねないということで、具体的な額に関しては、治験募集サイトに会員登録したり、実際に募集をしてみたりするまでは、明かされないようです。
では実際の治験募集はどういったものになるのか、実際の募集を参考にして、項目を紹介した表にまとめましたので、雰囲気を見ていきましょう。
募集で書かれる項目は、それぞれの募集サイトによって微妙に異なり、治験のフェーズが1~3どれに当たるのかが書かれていたりする場合があります。(フェーズに関しては、前回の「治験の基礎知識」参照)
今回は、架空の募集を見ていただきましたが、実際に治験募集のサイトを見ると、会員登録しなくても、現在募集中の治験の募集要項を見ることができます。
登録前に、落ち着いた気持ちで条件を確認することができるので、今回の記事を通して興味を持った方は、先ず治験募集サイトにアクセスしてみてはいかがでしょうか。
治験のメリットデメリットを知り、不安や疑問を解消できたでしょうか?
治験に興味を持った方は、ぜひ治験の応募サイトを覗いてみてください。
探していくと、治験募集サイトには、負担軽減費を前面にアピールした、バイト紹介のようなサイトもあります。
こちらは主に健康な成人を対象とする、フェーズ1の治験募集を一番の目的としているサイトのようです。
そういったサイトと、特定の病気の患者さん対象の治験募集サイトの雰囲気はだいぶ違うので、自分で調べるときは注意が必要かもしれません。
サイトを探す際に「治験 うつ病」といったように、病名・症状も一緒に検索すると、特定の疾患を対象とした治験サイトにたどりつきやすいので、試してみてください。
治験とは、受ける患者にとって治療の新しい可能性として考えられること、また同じ病気に苦しんでいる人たちのために新薬承認の手助けになることなど、治験をポジティブにとらえて、選択肢のひとつとして持ってみてはいかがでしょうか。
<監修>
大澤 亮太
精神保健指定医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
横浜市の精神科病院・クリニックを経て、首都圏にこころみクリニック5院・東京横浜TMSクリニック2院を運営。
<執筆者>
中道ひなた
自身の20年にわたるうつ病闘病の経験を生かして、執筆活動をする。
noteにおいて、うつとの向き合い方などを公開中。中道ひなた|note