「精神障害者保健福祉手帳」は、精神疾患によって日常生活や社会生活に支障が生じている方の、自立した生活と社会参加を助けるための制度です。この手帳を持つことにより、医療費の助成や公共料金の割引、減税などのさまざまな支援を受けることができます。
「精神障害者保健福祉手帳ってどんなもの?」
「持っているとどんなメリットがあるの?」
「一度取得したら返還はできないの?」
こんな疑問をもつ方に向けて、精神障害者保健福祉手帳についてわかりやすく解説します。
障害のある方が取得できる「障害者手帳」。障害者手帳には、身体の機能障害がある方のための「身体障害者手帳」、知的障害がある方に交付される「療育手帳」、精神障害の状態にあることを認定する「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があります。
制度の根拠となる法律等はそれぞれ異なりますが、どの手帳を持っている場合も障害者総合支援法の対象となり、さまざまな支援を受けられます。また、自治体や事業者が独自に提供するサービスを受けられることもあります。
今回は、精神疾患によって日常生活や社会生活に制約がある方が取得できる「精神障害者保健福祉手帳」について解説します。
精神障害者保健福祉手帳は、「精神保健福祉法」が定める制度です。日常生活や社会生活における支障の程度に応じて、1級から3級の障害等級に分けられます。
取得するには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
・何らかの精神疾患によって、長期にわたり日常生活や社会生活に制約がある方
・その精神疾患での初診から6か月以上が経っている方
精神障害者保健福祉手帳の対象となるのは、すべての精神疾患です。
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統合失調症
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うつ病、躁うつ病などの気分障害
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てんかん
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薬物やアルコールによる依存症等
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高次脳機能障害
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発達障害(自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠如・多動性障害など)
●
その他の精神疾患(ストレス関連障害など)
日常生活や社会生活における支障の程度により、1級から3級の「障害等級」に分けられます。医師の診断書に基づき、各都道府県の精神保健福祉センターという専門機関が審査を行います。
障害等級 | 生活における支障の程度 |
1級 | 自立した日常生活を送るのが非常に難しい ・他人の援助を受けなければ、着替えや食事など身の回りのことを行えない ・ささいな出来事がきっかけで症状が再発・悪化しやすい |
2級 | 働くことが難しく、日常生活に大きな支障がある ・生活で常に他人の助けを借りる必要はないものの、日常にさまざまな制限がある ・一人で外出できるが、ストレスがかかる状況では困難になる ・家事や身の回りのことをこなすのに、誰かの助けや助言が必要なことがある ・デイケアや就労移行支援事業所などの利用はできる ・大きなストレスを受けると症状が再発・悪化しやすい |
3級 | 日常生活や社会生活に支障がある ・日常生活を単独で行えるが、大きなストレスがかかると困難になる ・日常的な家事をこなせるが、状況や手順が変わると困難なことがある ・デイケアや就労移行支援事業所などの利用はできる ・精神障害者への配慮がある環境であれば、働ける場合もある |
★ この場合の等級は、障害年金の等級とは関係ありません。
精神障害者保険福祉手帳は、精神障害を持つ方が自立して生活し、社会参加するのを助ける制度です。この手帳を持つことで、医療費の助成や公共料金の割引などが受けられます。
受けられるサービス・支援の内容は地域や事業所によって異なりますが、例として以下のようなものがあげられます。
● 心身障害者医療費助成
● 鉄道、バス、タクシーなどの運賃割引
● 携帯電話料金の割引
● 上下水道料金の割引
● 公共施設の入場料などの割引
● 障害者雇用での就職、転職活動
また、障害等級に応じて、所得税や相続税、贈与税などの税金が軽減されます。
納税者自身、または控除の対象となる配偶者・扶養親族が手帳を持っている場合、所得金額から、級に応じた額が控除されます。
1級(特別障害者) | 2級・3級(障害者) | |
所得税の控除 | 40万円 | 27万円 |
住民税の控除 | 30万円 | 26万円 |
特に障害が重い場合(1級)は「特別障害者」にあたり、控除額が多く設定されています。
また、同じ家計で生活している配偶者や扶養親族がいる(かつ、配偶者や扶養親族と同居している)特別障害者は「同居特別障害者」にあたり、さらに控除額が多くなります。
同じ家計で生活する配偶者・扶養親族と同居する特別障害者 (同居特別障害者) |
|
所得税の控除 | 75万円 |
住民税の控除 | 53万円 |
障害のある方本人が贈与を受ける場合は、以下の特例が受けられます。
1級(特別障害者) | 2級・3級(障害者) | |
贈与税の非課税 | 6000万円まで | 3000万円まで |
★ 障害者への贈与にあたって、信託銀行との間で「特定障害者扶養信託契約」を結ぶ必要があります。
障害のある方本人が財産を相続する場合は、以下の特例が受けられます。
1級(特別障害者) | 2級・3級(障害者) | |
相続税の控除 | 85歳になるまでの年数1年につき20万円が相続税額から差し引かれる | 85歳になる達するまでの年数1年につき10万円が相続税額から差し引かれる |
障害のある方本人が所持しているか、その方のためにもっぱら使用する自動車で、一定の基準に該当する場合は、申請により自動車税、軽自動車税、自動車取得税が安くなる場合があります。
1.
市区町村の障害福祉窓口で、精神障害者保険福祉手帳を取得したいことを伝え、申請書類をもらいます。
2.
主治医に診断書を書いてもらえるよう依頼します。病院の規模によっては診断書専門の窓口があり、そちらで発行の申請をする場合もあります。
※診断書を作成するには、初診日*から6か月以上経過している必要があります。また、申請日から3か月以内に書いた診断書でなければなりません。
*初診日:障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日
3.
申請書や診断書などの必要書類一式を市区町村の窓口に提出します。
4.
申請に基づく審査で等級が決定し、手帳が交付されます。
★ 診断書の作成には2週間ほどかかるのが一般的です。使うタイミングから逆算し、早めに医師に相談しておきましょう。
1.
市区町村の障害福祉窓口でもらう所定の申請書
2.
医師の診断書
3.
本人の写真(縦4cm×横3cmが一般的です)
4.
本人の身元確認書類
5.
本人の個人番号(マイナンバー)確認書類
★ 障害年金を受給している方は、医師の診断書の代わりに以下の書類でも申請ができます。
◯
障害年金証書のコピー、または直近の障害年金振込通知書
◯
障害年金支給者に照会するための同意書(用紙は役所にあります)
★ 知的障害等をあわせもつなど、障害年金の受給理由が精神障害ではない場合は、医師の診断書が必要です。
本人が手帳の申請を行うのが難しいときは、家族や医療機関職員などの代理人が申請手続きを代わりに行うことができます。受け取りも、家族や医療関係者などが代行できます。
代理人が申請する場合は、先ほどの「申請に必要な書類」のほか、以下のものが必要です。
◯
委任状などの代理権を確認できる書類
◯
代理人の身元確認書類
★ 市区町村によって必要書類が異なることがあります。事前に障害福祉窓口に問い合わせてみましょう。
申請してから約2か月で、審査結果通知書が郵送で自宅に届きます。手帳の交付が決定した場合は、申請した窓口で手帳を受け取ります。
★ 手帳を窓口まで受け取りに行くのが困難な方のために、郵送で交付してくれる市区町村もあります。市区町村によって対応が異なるので、お住まいの地域の役所の窓口にお問い合わせください。
手帳の有効期限は、交付日から2年後の申請月の末日です。更新期日は手帳に記載されており、有効期限の3ヶ月前から更新手続きが可能です。
例)2020年6月1日に申請した場合…
有効期限:2022年6月30日
更新手続きが可能になる日:2022年4月1日
★ 交付日とは:申請書類を提出した日が「交付日(=手帳が有効になる日)」とされます。実際に手帳が手元に届くのは、「交付日」から約2カ月後になります。
新規申請のときと同様の必要書類に加えて、現在の手帳のコピーを提出します。
あらためて等級の審査が行われ、病状が変化していれば更新前とは異なる等級で交付されたり、「非該当」と判断されて手帳が交付されない場合もあります。
申請すると、各都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターが、診断書の内容などをもとに審査を行います。
症状に応じた基準に該当しないと判断された場合は、申請が通らないこともあります。
障害者手帳と障害年金は、まったく別の制度です。そのため、障害年金を受給していなくても、手帳の申請が可能です。
自立支援医療 と同時で申請・更新手続きを行うことができます。同時に手続きを行うことで診断書が1通ですむため、診断書の費用が節約できます。
治療ができる病気の方の場合、病気が完治したり手帳が必要なくなったりした場合には、手帳を返還することができます。精神障害者保険福祉手帳は2年に一度更新があるため、その際に自分で「再発行しない」と選択するのも可能です。
「障害者手帳を取得すると、周囲の人に偏見を持たれないか心配」という方もいるでしょう。手帳を持っていることは、自分から伝えない限り周囲の人にはわかりません。取得しても、使いたくない場面ではしまっておくことができます。
勤務先にも、手帳を取得したことを報告する義務はありません。ただし、年末調整や確定申告の書類手続きの中で、勤務先に分かる可能性もあります。心配な場合は、市区町村の窓口や税務署、税理士に相談してみましょう。
制度のことでわからないことがあったり、手続きで困ったりした場合は、「障害者手帳の申請を考えているのですが、どうすればいいですか?」といったように、かかりつけの医療機関で主治医や他のスタッフに相談してみましょう。医療機関での相談がうまくいかなかったときは、市区町村の障害福祉課などの申請窓口やお住まいの地域の精神保健福祉センターに相談してみてくださいね。
精神障害者保健福祉手帳をはじめ、障害者手帳は「いつでも返還できる・周りにバレない」制度であり、障害のある方が自立して生活を送るために「一時的に使う」こともできるものです。障害によって生活に困難を感じており、行政による手助けを必要としている場合、ご家族にそういった方がいる場合は、ぜひ利用を検討してみましょう。
<執筆>
小晴
フリーライター。生き方や多様性といったテーマを中心に取材・執筆をおこなう。執筆媒体は認定NPO法人フローレンスの公式サイト、「LGBTER」、「LITALICO仕事ナビ」など。
<監修>
奥主 真生(精神保健福祉士)
地域での相談支援に10年ほど携わる。現在は就労移行支援事業所・EXP立川でメンタル不調を抱えて就職を目指す方の就活の支援を行う。