「自分や家族が抱えている困りごとを、どう解決すればいいのか分からない」。そう悩んでいる方は、カウンセリングを受けるのも選択肢の一つかもしれません。カウンセリングは、専門家との対話を通じて、相談者の悩みを解決することを目的にしています。
今回は、カウンセリングの内容や料金、自分に合ったカウンセリングを見つける方法などを、詳しく解説します。
「カウンセリング」の定義は、実はハッキリとは決まっていません。国や地域によって、幅広い意味合いで使われている言葉です。日本では、相談者が社会の中でよりよく生きていくために専門家がサポートすることを、カウンセリングと呼んでいる場合が多いです。
カウンセリングは「キャリア」「美容」「教育」など、多様な分野で行われます。この記事では、日本のメンタルヘルスに関わるカウンセリングについて解説します。
カウンセリングについて調べた際に、「心理療法」という言葉を聞いた方もいるかもしれません。心理療法には複数の種類がありますが、代表されるものは次のとおりです。
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認知行動療法
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自分の考え方や捉え方に焦点を当て、よりバランスの取れた視点を持てるように導く心理療法です。うつ病の患者さんが認知行動療法で改善した場合、服薬治療のみの方と比較して再発率が低いことがわかっています。
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精神分析的心理療法
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精神分析的心理療法では、今までの人生で得た経験と現在の問題の関連性に着目します。心に浮かんだことを言葉にするなかで、自分の知らない自分に気づいていくことを目指します。
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来談者中心療法
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来談者中心療法では、カウンセラーは相談者の話に対して「こうしたほうがいい」などの指示を述べず、相談者の考えや感情を受容することを重視します。自分の話を受け入れられる経験を得ることで、相談者本人が自ら気づき、成長していくことを目指します。
厚生労働省によると、カウンセリングと心理療法は、厳密には違いがあるとされています。
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カウンセリング
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相談者が自分でよりよい選択をできるように、専門家がサポートする
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心理療法(精神療法)
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相談者が抱えている問題を解決するために、心理的な介入を行う
参考:カウンセリング / 心理療法 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
ただ、2023年現在の日本では、カウンセリングと心理療法はしばしば同じ意味で使われます。医療機関やカウンセリングルームによっては、カウンセリングの中に心理療法が含まれていたり、「心理療法(カウンセリング)」と明記されている場合もあります。
少しややこしいのですが、場所ごとに、カウンセリングと心理療法を区別しているところ・区別していないところが混在していると言えるでしょう。
「カウンセリングと心理療法、どちらを選べばいい?」「自分はどんなカウンセリングが向いてる?」といった疑問を抱えている方は多いかもしれません。それぞれの悩みや状況に合わせた選び方について、一緒に見ていきましょう。
抱えている悩みがハッキリしない場合や、とにかく誰かに話を聞いてほしい場合は、まずは認知行動療法などの心理療法を含まないカウンセリングのみでもいいかもしれません。
「話を聞いてもらえてスッキリした」というだけで、心身にはとてもいい影響があるからです。話を進めているうちに、漠然とした悩みが明確になることも期待できます。
カウンセラーには守秘義務があり、相談者の話を外部に漏らしてはいけません。周囲に話せない不安や不満がある場合は、ぜひカウンセリングを検討してみてください。
たとえば認知行動療法の場合は、自分の考え方に焦点を当てる心理療法です。「悪い方向に考えていつも落ち込む。考え方を変えたい」と要望がハッキリしている場合、最初から認知行動療法を受けられる機関を探すのもいいでしょう。
ただ、特定の心理療法を提供しているところでも、ほとんどの機関では相談者の話を聞くことから始めます。別の方法を提案される可能性もあることは、理解しておきましょう。
通院している場合は、主治医にカウンセリングを受けてもいいか確認しましょう。病気の症状によっては、カウンセリング以前に、症状の安定を目指したほうがいい場合もあります。
カウンセリングの許可が出たら、主治医に「この病院でカウンセリングを受けられますか?」と確認するのをおすすめします。病院内の心理士がカウンセリングを行っている場合は、そのまま予約に進めることもあります。医療機関の中でカウンセリングを提供していない場合も、提携しているカウンセリング機関を紹介してもらえるかもしれません。
夜眠れない・体がだるい・食欲がない・気分が激しく落ち込むなどの症状がある場合は、カウンセリングではなく、医療機関を受診することをおすすめします。
これらの症状は、うつ病や不安障害などの兆候である可能性があります。病気の治療には、まずは医師による診断が必要です。適切な治療をしたうえで、治療と併用、または病気の再発防止のためにカウンセリングを受けるのがいいでしょう。
カウンセリングを行っているところは多くありますが、主な場所としては次のとおりです。
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病院やクリニックの精神科・心療内科
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保健所や精神保健福祉センターの相談窓口
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勤めている企業の医務室・カウンセリング室
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個人のカウンセラーが経営しているカウンセリング機関(カウンセリングオフィス、カウンセリングルーム、心理相談室などの名前がついていることが多いです)
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民間企業やNPO団体が運営しているカウンセリングサービス
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学校内のスクールカウンセラー
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大学や市区町村に併設されている心理カウンセリングセンター
カウンセリングには、直接カウンセラーと話す以外にも、さまざまな種類があります。
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個人カウンセリング
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グループカウンセリング
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オンラインカウンセリング
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メールカウンセリング
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電話カウンセリング
オンラインカウンセリングでは、ビデオ会議ソフトなどを使用して、自宅で手軽にカウンセリングを受けられます。メールやチャットなど、書くことでカウンセリングを進めていく方法もあります。
カウンセリングを探す方法は一つではありません。よく使われる方法を以下にまとめました。
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インターネットで検索する
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通院している医療機関に相談する
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自治体の窓口に相談する(役所内の福祉課など)
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保健所や精神保健福祉センターに問い合わせる
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会社や学校でカウンセリングを受けられるか確認する
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人に紹介してもらう
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SNSで口コミを見つけた機関に問い合わせる
自分に合ったカウンセリングを探すときに、確認したいポイントをご紹介します。
カウンセラーが持つ資格は、医師免許のように統一されていません。国家資格もあれば、さまざまな団体が認定している民間資格もあります。
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公認心理師(国家資格)
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臨床心理士(日本臨床心理士資格認定協会)
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産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会)
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カウンセリング心理士(日本カウンセリング学会)
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メンタル心理カウンセラー(日本能力開発推進協会 JADP)
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メンタルケア心理士(メンタルケア学術学会)
公認心理師と臨床心理士の資格取得のためには、指定大学院の卒業など、特定の条件をクリアする必要があります。資格としての専門性は高いと言えるでしょう。
相性の問題も大きいため「資格があれば安心!」と断言はできませんが、カウンセラーの知識や能力を証明するものとして、資格は一つの判断材料と言えます。
カウンセラーは、それぞれ得意分野が異なります。推奨する治療法が違う場合もあれば、夫婦問題・子育て・キャリアなど、特定のジャンルに特化しているカウンセラーもいます。
解決したい悩みがカウンセラーの得意分野に当てはまるか、事前に確認したほうが安心でしょう。電話やメールで問い合わせるほか、カウンセラーのブログやSNSがあれば、チェックして人柄や雰囲気を掴んでみるのもおすすめです。
カウンセリングを受ける回数は、個人の状態や希望によって異なります。
「話を聞いてもらう」などのカウンセリングであれば、1回から数回、または希望に応じて受けることが多いようです。認知行動療法などの心理療法を行う場合は、週1回程度の頻度で、数か月以上の長期間継続をすることが多いです。
「1回きりだと思っていたのに、何回も受けなくてはいけない」などのトラブルが起きないように、事前に確認しておくほうが安心です。
カウンセリングをオンラインで受ける場合は、受ける場所を事前に確保しておいたほうがいいでしょう。同居家族の存在が気になり、カウンセリングで本音を言えないこともあるかもしれません。一人になれるタイミングを確認しておくなど、事前の準備をおすすめします。
レンタルオフィスやコワーキングスペースなどの個室を利用するのも選択肢の一つです。インターネットが接続されている必要があるため、電波状況には注意しましょう。
受ける場所や方法によっても異なりますが、一般的な相場は以下のとおりです。
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対面カウンセリング:7,000円〜15,000円/60分
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ビデオ、通話カウンセリング:5,000円〜10,000円/60分
チャットやメールを利用したカウンセリングでは、送る回数や期間ごとに料金が設定されています。こちらも料金はまちまちですが、たとえば一往復で1,000円〜3,000円、2週間で8,000円などです。チャット無制限のパッケージが提供されている場合もあります。
カウンセリング料金の上限は定められていませんが、ほかと比較してあまりにも高額なところは避けたほうが安心です。
精神科や心療内科でうつ病などの診断がつき、医師がカウンセリングを行う場合は、保険適用になります。
ただ、医療の現場では、一般的に「医師は病気の治療を担当し、心理士が心理的な支援をする」という役割分担が行われています。そのため、2023年現在でカウンセリングを受ける場合は保険適用外のケースが多いでしょう。
うつ病などの病名がなくても、カウンセリングは受けられます。
カウンセリングに「病気じゃないから受けられない」「ハッキリとした悩みがないから受けられない」などの制約はありません。ご本人の受けたい気持ちがなにより大切です。
通院中の病院でカウンセリングを提供していない場合は、ほかの機関で受けるのもいいでしょう。その場合は「ほかでカウンセリングを受けたいと思っています」と、主治医に伝えることをおすすめします。
主治医とカウンセラーの方針が違う可能性もあります。その際に「どちらの話を優先させたらいいんだろう?」と、自分で判断するのは大変です。カウンセリングの内容や期待していることも含めて、主治医に報告しておくほうが安心です。
主治医の許可が出たうえで、うつ病治療とカウンセリングを同時に進めている方は多いです。カウンセリングが受けられる状態かどうか、まずは主治医に確認してみましょう。カウンセラーとの対話が困難な状態であれば、病気の治療を優先する場合もあります。
話したい内容が想像できている方は、事前にメモにまとめておくと、当日スムーズに話を進められるでしょう。
ただ、悩みを抱えている方の多くは、頭の中が煩雑でメモを作ることが難しい状態です。その場合は、悩んでいることを一つだけ書き出しておきましょう。
「〜がしんどい」「〜がいやだ」など、簡単な書き方で大丈夫です。それを切り口に、カウンセラーが話を深掘りしてくれるはずです。
気になるところがある場合は、申し込みには進まずに、疑問点を問い合わせるだけでも十分です。回答を受けることで、さらに一歩進めるかもしれません。
人間同士の相性がある以上、検索のみで自分にとっての「完璧なカウンセラー」を見つけることは難しいです。避けたいのは、カウンセリングを望んでいるにもかかわらず、受ける場所を決められずに機会を逃すことです。
もしカウンセラーとの相性が合わないと感じたら、別のカウンセラーに変更することは自由です。最初から完璧さを求めずに、まずは話す機会を作ることが大切です。
医師が主導して行うカウンセリング以外は、基本的には保険適用外です。費用の問題でカウンセリングを受けることが難しい場合は、無料の窓口に相談することも検討してください。厚生労働省が運用している「まもろうよ こころ」では、さまざまな相談先が紹介されています。
金銭的な困りごとを抱えている場合は、それ自体を相談するのも選択肢の一つです。
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年金の相談:年金事務所
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医療費の相談:役所内の福祉課、医療安全支援センター、精神保健福祉センター、保健所、加入している医療保険の相談窓口 など
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仕事の相談:ハローワーク、就労支援移行施設 など
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子育ての相談:役所内の保育課、児童相談所 など
インターネットで「お住まいの地域 医療費 支援」「お住まいの地域 子育て 相談」などで検索すると、希望に近い相談窓口を見つけられるかもしれません。
東京都在住で生活保護を受給している場合は、「被保護者自立促進事業要綱」の定めにより、年間72,000円までのカウンセリング費用が支給される可能性があります。気になる方は、ケースワーカーや自治体の相談窓口(役所の福祉課など)に確認してみましょう。
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病気を抱えている方を支えるご家族が「本人がカウンセリングを拒否している」と悩むケースはよく見られます。カウンセリングでは、相談者の意思が尊重されます。ご本人が拒否している場合、強制的にカウンセリングに参加させても、カウンセラーとの対話が成立しない可能性もあります。
カウンセリングは、さまざまな手段の一つです。治療の進み具合に不安を感じる場合は、主治医と話す機会を設けることも検討してください。「治療の効果が出ていないように感じます。現時点でカウンセリングを受けることはどう思われますか」と相談することで、カウンセリング以外の方法も含めた適切なアプローチを提案してくれるかもしれません。
主治医と話す場合は、できるだけご本人の了承を得るように心掛けましょう。主治医との関わりを秘密にすると、ご本人が「主治医に話したことが、家族に伝わるかもしれない」と不安を感じることがあります。
ご自身の気持ちを伝える際は、アイメッセージを意識することをおすすめします。アイメッセージとは、自分を主語にして思いを伝える方法です。相手を主語にしたコミュニケーションは、ユーメッセージと呼ばれます。
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アイ・メッセージ
「(私は)あなたの話を受け止めたいと思っているけど、プロの人に話を聞いてもらうのも(私は)いいと思うな。話すことであなたがスッキリできたら、(私は)うれしいよ」
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ユー・メッセージ
「どうして(あなたは)カウンセリングに行かないの? 気持ちを吐き出さないと、(あなたが)スッキリしないでしょう」
もちろんです。病気を抱えている家族との関わりのなかで、心身のバランスが崩れることもあるでしょう。セルフケアの一つとして、ぜひカウンセリングを考えてみてください。
病気を抱えているご本人が通院している医療機関に相談できる場合は、「本人ではなく、家族が受けられるカウンセリングはありますか?」と尋ねてみるのもおすすめです。
カウンセリングを受けていることを、病気を抱えるご本人に伝えるかどうかは、家庭ごとに適した方法が異なります。ただ、隠すことでご本人の不安を増やす可能性がある場合は、正直に伝えることが安心につながるかもしれません。伝え方に迷う場合は、それ自体をカウンセリングのテーマにして、カウンセラーと一緒に考えてみるといいでしょう。
最後に、encourage(エンカレッジ)の投稿の中から、カウンセリングの体験談をご紹介します。カウンセリングの効果は人によってさまざまです。一例として参考にしてください。
※ 利用者への配慮のため、掲載する内容は実際の投稿ではなく、複数の投稿をもとに作成したものです。
「encourage(エンカレッジ)」は、病気を抱える方々のご家族が安心して話せる場所を提供するために、投稿型のコミュニティを運営しています。カウンセリングと同様に、心身をケアする方法の一つとして、ぜひコミュニティへの投稿も検討してください。
<監修>
株式会社cotree
「やさしさでつながる社会をつくる」を企業理念とし、メンタルヘルスケアのインフラを目指し、2014年の設立以来、オンラインカウンセリング・コーチングを中心に「メンタルヘルス x IT」の領域で事業およびサービスを展開しています。
<執筆>