家族がうつ病で休職。傷病手当金の支給条件や申請方法を解説

ご家族がうつ病で仕事を休むことになったら、収入の減少に不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
傷病手当金は、休職中で十分な給料を得られないときに生活を下支えしてくれる、健康保険の制度です。
この記事では、傷病手当金の支給条件や支給期間、申請方法について解説します。

傷病手当金とは、健康保険の加入者が病気やけがで働けず、十分な給料を得られない場合に、加入者やその家族の生活を保障するための制度です。
傷病手当金は、職場の健康保険に加入している会社員や公務員であれば誰でも利用可能です。
一方、自営業やフリーランスの方が加入する国民健康保険(国保)には会社員と同様の傷病手当金はありませんが、新型コロナウイルス感染症に感染した(疑い含む)ことで仕事を休んだ場合のみ支給対象の傷病手当金があります。今回の解説は、会社員や公務員の傷病手当金についてとなります。

傷病手当金は、次の4つの条件をすべて満たした場合に支給されます。

①業務外の病気やけがの療養のために、仕事を休んでいる
「病気やけがの療養」とは、医師の指示のもと、病気やけがの治療のために仕事を休むことです。医師の指示があれば、入院だけでなく自宅での療養も該当します。うつ病などの精神疾患も対象となります。
業務上の事由による病気やけがの場合は、傷病手当金ではなく、労災保険の給付対象となります。また、医師の指示ではなく自己判断で仕事を休んだ場合や、美容整形など病気とみなされないものによる休養は、傷病手当金の支給対象外です。

②働くことができない状態である
病気やけがによって、今まで携わっていた仕事ができない状態を意味します。「働くことができない」ことについては、医師による証明が必要です。

③連続する3日間を含み4日間以上、働くことができなかった
病気やけがの療養のために3日間連続で仕事を休んだ場合に、4日目以降の休業日が支給対象となります。連続する3日間は「待期」と呼ばれ、有給休暇、土日・祝日などの公休日も含まれます。

「待期3日間」の考え方
待期は連続3日間で成立すると定められています。そのため、例えば2日連続で会社を休み、3日目に出勤した場合には、待期が成立せず、傷病手当金の支給対象にはなりません。
一度待期が成立すると、その後は間に出勤日があっても支給対象になります。

④休んだ期間、給料をもらっていない
3日間連続で仕事を休み、4日目以降の休業日のうち、給料の支払いがない日が支給対象となります。ただし、給料の支払いがあっても、その額が傷病手当金よりも少ない場合は、差額が支給されます。
休んだ期間に傷病手当金よりも多い額の給料を得た場合は、支給対象外です。

傷病手当金の支給額は、健康保険に加入していた期間の長さや、加入している健康保険の給付内容によって異なります。

健康保険に加入していた期間が12か月以上の場合
1日あたりの支給額は、これまでの給料のおよそ3分の2です。
傷病手当金の計算式
1日あたりの支給額= 支給開始日以前12か月の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30(日)×2/3

健康保険に加入していた期間が12か月未満の場合
1日あたりの支給額は、以下1・2のいずれか少ないほうの額 ×2/3です。
1. 健康保険加入期間の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30(日)
2. 加入している健康保険の前年度の9月30日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30(日)

健康保険によっては、傷病手当金に上乗せした付加給付がある場合があります。加入している健康保険の内容を確認してみましょう。
なお、健康保険の加入期間は、転職などで異なる健康保険組合(組合健保)や、全国健康保険協会(協会けんぽ)などへ加入先が変わった場合、通算されません。ただし、協会けんぽの都道府県支部間の異動は同じ加入先として通算されます。

傷病手当金が支給停止または調整される場合
以下の給付の支給対象に該当する場合、傷病手当金の支給が停止または支給額が調整されます。

● 出産手当金

同時に支給対象となる場合、傷病手当金の支給が停止されます。
ただし、傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多ければ、その差額が支給されます。

● 障害厚生年金

同じ病気やけがで障害年金の障害等級の認定を受けた場合は、傷病手当金の支給が停止されます。
ただし、1日あたりの障害厚生年金の額が1日あたりの傷病手当金の額よりも少ない場合は、差額が支給されます。

● 障害手当金

傷病手当金の額の合計額が障害手当金の額と等しくなるまでの間、傷病手当金の支給が停止されます。傷病手当金の合計額が障害手当金の額よりも多くなると、調整された額が支給されます。

● 老齢年金

退職後(社会保険の資格喪失後)で同時に支給対象となる場合、傷病手当金の支給が停止されます。ただし、1日あたりの老齢年金の額が1日あたりの傷病手当金の額よりも少ない場合は、差額が支給されます。在職中(社会保険に加入中)は同時に受けられます。

● 労災保険の休業補償給付

過去に労災保険から休業補償給付を受けていて、休業補償給付と同一の病気やけがのために労務不能となった場合には、傷病手当金は支給されません。

労災保険の休業補償給付を受けている期間中に、業務外で別の病気やけがをして働けなくなった場合は、傷病手当金は支給されません。ただし、1日あたりの休業補償給付の額が、1日あたりの傷病手当金の額よりも少ない場合は、差額が支給されます。

傷病手当金の支給期間は、連続3日間仕事を休み(=待期が成立し)、「支給が開始されてから通算して1年6か月」が上限とされています。 支給期間内に仕事に復帰できた場合は、復帰前日までで支給が終了します。

過去に傷病手当金の支給対象となったことがある場合
傷病手当金の支給期間についての考え方は、法改正によって2022年1月1日を境に変わり、休業期間を通算するようになりました。過去に傷病手当金を受給したことがある場合は、その時期がいつだったかによって、今回の支給期間が異なります。

・2021年12月31日時点で支給開始日から1年6か月経っていない場合(つまり2020年7月2日以降に支給開始日がある)

支給期間の通算が適用されます。復帰後、同じ病気やけがで働けなくなった場合は、出勤して給料の支払があった日を除いて通算した休業期間が1年6か月に達するまで、支給対象となります。

・2022年1月1日より前に、支給開始から1年6か月を経過している場合
支給期間の通算は適用されないため、支給対象にはなりません。

過去にうつ病による休業で傷病手当金を受給し、復帰後にうつ病が再発した場合は、傷病手当金を再受給できるのでしょうか。

・以前の受給開始から、2021年12月31日時点で1年6か月経過していない場合
支給期間の通算が適用され、「以前の受給のときと同じうつ病」を理由として受けることができます。

・以前の受給開始から、2021年12月31日時点で1年6か月を経過している場合
支給期間の通算は適用されず、「以前の受給のときと同じうつ病」を理由として受けられません。ただし、次の場合は受給可能です。

・「以前のうつ病」が治癒した場合
「以前のうつ病」が一旦治癒し、相当期間※就労した後「再発したうつ病」または「別の精神疾患」と判断される場合は、受けることが可能です。この判断は協会けんぽや組合健保が行うため、支給されるか否か、確認が必要です。※例えば、うつ病により過去に傷病手当金を支給したケースで、ある組合健保では、3年程度、ほぼ休みなく健康に就労した後に再発した場合の支給を認めています。
再度支給される場合は、支給開始から通算して1年6か月の上限が適用されます。

傷病手当金と併用して利用できる制度のひとつとして、自立支援医療(精神通院医療)があります。

自立支援医療(精神通院医療)については、こちらで解説されています。

医療費を軽減できる「自立支援医療(精神通院医療)」って?自己負担額や申請方法を解説!|encourage|エンカレッジ

傷病手当金を申請するには、傷病手当金支給申請書が必要です。
申請書は、一般的に以下のような書類から成ります。

被保険者記入用:健康保険の加入者本人が記入します。
事業主記入用:職場の担当者が記入します。
療養担当者記入用:医師が記入します。

書類の名称などは、加入している健康保険によって異なる場合があります。また、病気やけがの内容によって、上記以外の書類の提出を求められる場合もあります。

実際に傷病手当金を申請する際は、以下のような手順となります。

職場に、業務外の病気やけがの療養のため長期欠勤することを伝える

加入中の健康保険から傷病手当金支給申請書を取り寄せ、「被保険者記入用」を作成する
休業期間には、土日・祝日などの公休日も含まれます。

医師に「療養担当者記入用」の記入を依頼する
「働くことができない」ことを証明するための書類です。
診断書で代用することはできません。申請の都度、医師に記入を依頼する必要があります。
なお、傷病手当金の文書料金には健康保険が適用されます。

職場に「事業主記入用」の記入を依頼する
休んだ期間、給料をもらっていないことを証明するための書類です。

すべての書類をそろえ、健康保険に傷病手当金の支給申請をする
必要書類が揃ったら、加入中の健康保険へ支給申請をします。支給申請は職場経由で行うのが一般的ですが、健康保険に対して直接申請しても問題ありません。

申請後は審査が行われます。支給される場合は支給決定通知書が送付され、傷病手当金の金額や振込予定日などが通知されます。
審査に要する期間は、加入している健康保険によって異なります。

実際に休業してから事後申請し、長期休業の場合は毎月申請する
傷病手当金は、実際に仕事を休んだ後に事後申請するのが原則です。
休業期間が長期となる場合は、一般的には毎月申請をします。毎月申請をしないでまとめて申請すると、申請対象の期間が長くなり、その分受給時期が遅くなってしまいます。また、傷病手当金は働けない期間の収入を補填するためのものなので、給料と同様に毎月受け取るのが望ましいと考えられています。
ただし、加入している健康保険によって規則が定められている場合もあるため、確認してみましょう。

・申請後、即時の支給ではない
上記の申請方法の通り、申請してから傷病手当金が振り込まれるまでには一定程度時間がかかります。すぐ支給されるものではないことに留意が必要です。

・申請の期限は2年間
傷病手当金を受ける権利は、働けなかった日ごとに発生し働けなかった日の翌日から2年間は有効です。申請をしていなかった場合、過去2年以内であればさかのぼって申請できます。

ご家族が傷病手当金を申請したい場合は、まずは休業中のご本人か、ご本人の職場や加入中の健康保険に、傷病手当金について確認する必要があります。

ご本人に確認する場合
ご本人に確認するときは、体調がよさそうな時間帯を見計らって声をかけるとよいと思われます。傷病手当金の制度や申請方法について、ご本人が情報を持っているか尋ねてみましょう。

ご家族がご本人の職場や健康保険に連絡する場合
ご本人への確認が難しい場合や、ご本人が傷病手当金について知らない場合は、ご家族が職場や健康保険に問い合わせるのも手段のひとつです。事前にご本人の同意を得たうえで、問い合わせるようにしましょう。「本人と一緒に傷病手当金の申請をしたいので、申請書類を送ってください」と伝えてみましょう。

職場に連絡する場合については、こちらの記事も参考にしてください。

パートナーがうつ病で休職。制度について家族が確認するには?

傷病手当金を受給中で、退職の予定がある場合、以下の3つの条件を満たしていれば、継続して受給することができます。
①退職日までに継続して1年以上、健康保険に加入している

②退職時に傷病手当金を受けている、または受ける条件を満たしている
連続3日間仕事を休み(=待期が成立し)、4日目以降が退職日であること

③退職日に出勤していない
退職日に手続きや挨拶などのために出勤すると、働ける状態であるとみなされ、傷病手当金を受けられなくなるため、注意が必要です。

医療機関を転院する予定がある場合、転院の際に空白期間がなければ、継続して傷病手当金を受給することができます。
転院前の最終受診日~転院先の初診日までに間が空き、空白期間(通院先がない期間)があると、空白期間中は傷病手当金を受けられません。転院先では、初診日より前の期間についての就労不能の証明ができないためです。
切れ目なく傷病手当金を受給するためには、転院前の医療機関で証明をもらう、受診日を同日や翌日するなど、空白期間を作らないための工夫が必要です。

復職の見込みが立たないときは、「障害年金」請求の検討をおすすめします。初診日から1年6か月経つと請求ができるようになる制度です。

障害年金は、請求してから初回の振り込みまで少なく見積もっても6か月かかります。初診日から1年6か月経っているなら、傷病手当金の残りの期間にこだわらず、障害年金の支給決定を得ておけば安心です。

障害年金については、こちらの記事も参考にしてください。

障害年金ってなに?どんな人がもらえるの?本人以外も相談できる?受給額、申請先も解説!|encourage|エンカレッジ

2つの制度の支給期間が重なる場合、傷病手当金の額が調整されるものの、空白期間なく給付されます。空白が生じる場合でも、経済的な不安を少なくするためにできるだけ短い期間にとどめるよう工夫したいものです。

同じ病気やけがが原因で、傷病手当金と障害厚生年金を重複して受給する場合、支給額の調整(併給調整)が行われることがあります。

①日額換算で、傷病手当金が障害厚生年金より多い場合
傷病手当金の日額(1日あたりの支給額)が、障害厚生年金の日額よりも多い場合は、差額が傷病手当金として支給されます。

②日額換算で、傷病手当金が障害厚生年金より少ない場合
傷病手当金の日額が、障害厚生年金の日額よりも少ない場合は、障害厚生年金が満額支給され、傷病手当金は支給停止となります。

傷病手当金の制度や申請方法について困ったときは、ご本人の職場や加入している健康保険に確認してみましょう。

<監修>
相川裕里子(あいかわ ゆりこ)
日本女子大学文学部社会福祉学科卒業。特定社会保険労務士。社会保険労務士事務所AI(アイ)コンサルティングを夫婦で経営。障害・老齢年金などの相談・請求代理で3,000件超の実績をもつ。障害年金の相談では、お客様の心に寄り添う傾聴からご本人が気づかない生活上の支障をくみとり、医師に伝えるのが得意。

今回監修をお受けいただいた相川裕里子先生が執筆された『世界一やさしい障害年金の本【改訂版】』。障害年金の制度&請求のしくみを、マンガ+講義調で解説されています。あなたと家族を支えてくれる、心強い生活の味方です。

相川先生よりコメント「マンガ部分はベータトリップ(encourage運営会社)の林さまに監修いただいた本です!」

『世界一やさしい障害年金の本 改訂版』 著者-相川裕里子