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2020年11月09日 更新

うつ病の治療方法は?回復の流れや入院についても解説

ご自身やご家族がうつ病と診断されたとき、「どのように治療を進めていくのかわからない」「どれくらいで回復するの?」と不安に思う方もいるでしょう。

モヤモヤとした疑問を解消することで、不安感が和らぎ、落ち着いて治療に向き合える場合も多いです。今回は、「うつ病の治療方法」「回復の流れ」など、治療に関することを詳しく解説します。

うつ病は、脳の働きのバランスが崩れて、心身の不調があらわれる病気と言われています。

「気分が落ち込む」「意欲が低下する」などの精神症状だけではなく、「食欲がない」「眠れない」「疲労感が強い」などの身体症状が出る場合もあります。

うつ病がどうして、どのように発症するかは、現状ではまだ解明されていません。ストレスや環境の問題がきっかけになることもあれば、思い当たることがないのに、スイッチを押されたように発症することもあります。

うつ病は、やる気や気力で解決できるものではなく、治療が必要な病気です。主治医と協力しながら、焦らずに治療を進めていくことが大切です。症状に関して疑問に思うことがあれば、ご自分で判断せずに主治医に相談しましょう。

うつ病の治療は、大きく4つにわけられます。

1. 休息
2. 薬物治療
3. 精神療法
4. その他の治療

4つの治療法の中でも、なくてはならないものが「休息」です。心と体を休ませながら、その他の治療法を組み合わせていくことが、うつ病治療の基本です。

体調を悪化させている要因がわかっている場合は、居心地のいい生活が送れるように、環境を整えることも大切です。

・睡眠時間を確保できるように、多忙な仕事を調整する
・家事の負担を軽減するために、家族に相談する
・ストレスを感じる環境から抜け出すために、人間関係を見直す

また、「休息」というのは、「ずっと布団から出ずに、なにもしない」ではありません。症状の重さに合わせて、無理のない範囲で自分が楽しめる行動を増やしていくことや、生活習慣を整えることも心身の回復には必要です。

・疲弊しない程度に散歩する
・趣味で取り組んでいたことを再開する
・人との関わりを持つ

人によって、なにを休息と感じるかは異なります。ご自身にあった休息の方法を試しながら、焦らずに心身を休めるようにしましょう。

うつ病の治療では、休息を取りながら、薬物治療を同時に行うことが多いです。

主に用いられているものは、「抗うつ薬」と呼ばれる薬です。抗うつ薬は数十種類もあり、副作用を確認しながら、自分に合った薬を探していきます。

副作用を抑えるために、始めは少量の薬を服薬して、徐々に効果を感じられる量に増やしていきます。服薬初期は薬の効果を感じられず、副作用だけがあらわれることも珍しくありません。

個人差はありますが、抗うつ薬の効果があらわれるまでには、服薬から早くて2週間、人によっては1か月以上かかると言われています。

抗うつ薬の主な副作用は、以下の通りです。
・吐き気・嘔吐
・便秘・下痢
・口の渇き
・頭痛
・日中の眠気
どんな副作用が出るかは、人によって異なります。副作用がひどいと感じるときは、無理せずに主治医に相談するようにしましょう。

個人差はありますが、目安としては2週間分の薬代で平均1,000円~2,000円ほどです。そこに、診察や検査にかかる費用が加算されます。

encourage内の、こちらの記事も参考にしてください。
「精神科」と「心療内科」はどう違う?病院の選び方は?受診に関するQ&A
※「Q07:診察にお金はどれくらいかかりますか?」で詳しく解説しています。

精神療法は、主に再発予防を目的にしています。医師や臨床心理士と対話を重ねながら、自分のいる環境や性格での困りごとを認識して、解決方法を探っていきます。

・認知行動療法

困ったことが起きたときの自分の考え方や行動を分析して、ストレスを抱え込まないスキルを身につける方法です。
・対人関係療法

うつ病を発症する要因となった対人関係の困りごとを認識して、対処法を見つけていきます。

精神療法は、どの医療機関で受けるかによって費用が異なります。また、病院やクリニックによっては、精神療法を行っていないところもあります。

興味がある場合は、通院しているところで受けられるか、主治医に相談してみましょう。

うつ病の治療には、上記の治療法の他にも、様々な方法があります。

・反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS療法)

磁気を用いて、脳の神経細胞を刺激する治療法です。治療法の名前は「rTMS療法」が正しいですが、「TMS療法」と表記される場合もあります。一般的には6週間継続して治療を行うため、治療期間を確保しておくと安心です。

脳のごく一部のみを刺激するため、体の他の部分に影響が少なく、副作用があらわれにくいと言われています。薬物治療での効果が少ない、または副作用が強く服薬が難しい場合などに用いられます。

保険適用された治療法ですが、自費診療を行っている医療機関も多く、かかる費用には大きな差があります。条件はありますが、大学病院や総合病院の臨床研究で、無料で治療を受けられる場合もあります
・修正型電気けいれん療法(m-ECT療法)

脳に数秒間の電気刺激を与える方法です。2020年10月現在で行われている精神科の治療法の中でも、効果が高いと言われています。副作用を抑えるために、全身麻酔下で行われます。

治療には入院が必要になることから、症状が強く緊急性が高い方、または副作用などで服薬が難しい方が対象になることが多いです。医療機関によって、かかる費用は異なります。

入院治療の目的は、多岐にわたります。

・うつ病の症状が重く、緊急性が高い
・自宅では十分な休息が取れない
・薬物療法や認知行動療法など数々の治療を短期間で試し、自分にあった治療を探す
・生活リズムや服薬リズムを整える
・入院中に支援制度などを申請して、生活の土台を固める

症状が重い方が対象と思われがちな入院治療ですが、休息目的で入院する方もいます。入院の期間には個人差がありますが、基本的には3か月を目安に退院することが多いです。

うつ病が回復していく過程は、大きく3つにわけられます。

1. 急性期

「気持ちの落ち込みが強い」「体が動かない」などの症状が強く出る時期です。
この時期は、なによりしっかりと休息を取ることが大切です。不安なことは主治医に相談しながら、焦らずに治療を続けていきましょう。
2. 回復期

調子のいいとき、悪いときを波のように上下しながら、少しずつ回復していく時期です。調子がよかった次の日に、突然調子が悪くなることも珍しくありません。

この時期は、体内リズムを整えながら、無理のない範囲で行動範囲を広げていくようにしましょう。「午前中に散歩する」「図書館に行く」など、徐々に体を動かすことに慣れていくといいでしょう。
3. 再発予防期

症状が安定して、日常生活を大きな負担なく送れるようになる時期です。「環境を整える」「不調のサインに気づけるように、周りと話し合っておく」など、再発予防の工夫を取り入れるといいでしょう。

また、症状が安定しても、再発予防のために数年は治療を継続することが望ましいです。服薬をやめる際は、ご自身の判断でストップせずに、必ず主治医に相談するようにしましょう。

急性期・回復期・再発予防期が、それぞれどれくらいの時間を要するかは、人によって大きく変わります。数か月で寛解する場合もあれば、数年かかる場合もあります。

うつ病は、症状の波を上下しながら、階段を上るように少しずつ回復していきます。

症状が悪くなったときに、「昨日は調子がよかったのに…」「もう回復しないのかな…」と思い詰めてしまう方もいます。
ですが、全体を俯瞰して見ると、発症当時より回復していることも多いのです。

ご本人の症状が悪化したときに、周りの方が「自分がなにかしてしまったかな?」「なにが原因だろう?」と焦ってしまうことも珍しくありません。

一概に環境のせいではないとは言えませんが、回復していく過程で、症状の波がやってきた可能性も大いにあります。不調の原因を探して疲弊してしまう場合は、「悪化する時期がやってきたのかな」と割り切ることも、ひとつの方法です。

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うつ病の家族をケアする際のステージごとの関わり方と意識すべきポイント【前編】

医療費が生活を圧迫する場合は、積極的に公的な制度を活用しましょう。「自立支援医療」「高額療養費制度」などの制度で、医療費を抑えられる場合があります。

どの制度に申請するべきかわからない場合は、精神保健福祉センターや医療機関に相談してみましょう。

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医療費を軽減できる「自立支援医療(精神通院医療)」って?自己負担額や申請方法を解説!
「精神保健福祉センター」ってなに?どんなことを相談できる?勤務経験がある元職員に聞いてきました!

治療に関して不安があるときは、まずは主治医に相談するようにしましょう。気になる治療法がある場合は、自分にとって最適な治療法か、医師に相談するのもいいでしょう。

その際に、主治医の判断で、別の治療法を提案される場合もあります。または、薬の効果がまだ出ていない時期のため、服薬を続けることを勧められることもあります。

「理想通りに治療してくれない」と、不安感から名医を探してしまうと、適した治療を受けられずに、医療機関を転々としてしまう可能性も出てきます。早々に医療機関を見限るのは避けて、主治医と相談しながら治療方針を固めていくことをおすすめします。

気になることがある場合は、小さなことでも、主治医に確認するようにしましょう。どんな点を不安に思っているか、主治医に伝わっていない場合も多いです。

・薬はなんのために飲むの?
・副作用がつらいので、薬を変えたい
・持病の薬と合わせて飲んでもいい?
・通院のペースを変えたい

うまく伝えられない不安があるなら、紙に書いて、主治医に見せるのもいいでしょう。

質問しているのにまったく回答してくれず、信頼関係の構築が難しい場合は、受診するたびにストレスを抱えてしまう可能性があります。その際は、別の医療機関の受診を検討するのもいいでしょう。

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「精神科」と「心療内科」はどう違う?病院の選び方は?受診に関するQ&A

うつ病は、適切な治療が必要な病気です。「周りの人はもっとがんばっているから…」と、やる気や根気でどうにかしようとすると、さらに悪化してしまう可能性もあります。

うつ病治療で大切なことは、焦らずに、ゆっくり休むことです。

休むことも治療の一環だと認識して、「なにかしなくちゃ!」と焦る気持ちを和らげていくことが、しっかりとした休息を取るコツです。

経済的な不安があり、なかなか休めない方もいるでしょう。その場合は、ぜひ公的な制度を活用してください。ご自身で申請できる状況ではないなら、医療機関や精神保健福祉センターのサポートを積極的に受けましょう。

また、うつ病の症状は、人によって異なります。症状のつらさも、人と比べられるものではありません。

ご自身の体と心の声に耳を傾けながら、主治医と協力して、治療を進めていきましょう。

<監修>

和田 真孝
2017年慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に所属。精神科単科病院、大学病院での臨床経験を経て、現在同大学にて「治療抵抗性うつ病に対するrTMS治療研究」を中心的に担う。米国生物学的精神医学会、国際神経精神薬理学会など数々の国際学会で優秀賞を受賞。
所属研究室:慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 精神病態生理学研究室

<執筆>

くまのなな

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