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2021年06月21日 更新

家族に「死にたい」と打ち明けられたら。希死念慮・自殺念慮との向き合い方

家族や大切な人に「死にたい」と打ち明けられたら、どんな言葉をかけて、どんな反応をすればいいのでしょうか。相手が求めている対応がわからず「どうして死にたいの?」と、パニックになってしまう方もいるでしょう。

今回は「死にたい」と打ち明けられたときの対応、また、その言葉を受けて動揺した自分の心のケアについて、GKT(NPO法人日本ゲートキーパーTOKYO)の理事を務める森本美花(もりもと みはな)さんにお話を伺いました。

ゲートキーパーは、もともとは日本のみならず海外でも、自殺対策の分野で広く使われていることばで、悩んでいる人に寄り添い、関わりを持って「孤立・孤独」を防ぎ支援する人のことです。
引用:NPO法人日本ゲートキーパー協会TOKYO

いったい「死にたい気持ち」とはなんでしょう。「死にたい」「消えたい」といった気持ちは、生きている中で、もしかしたら誰しもが抱いたことのある感情かもしれません。「生きていれば、死にたいときもあるよね」と考える方もいるでしょう。

しかし、そんな風にフッと浮かんでくる「死にたい」に対して、軽い気持ちだとは決して言えません。なぜなら、個人が抱えている苦しみや生きづらさは周りと比較して「軽い」「重い」と言えるものではなく、自分が「つらい、死にたい」と思うならそれは事実として存在する感情だからです。

うつ病の患者さまや、うつ状態にある方の「死にたい」も、根本にあるものは日常で感じる「死にたい気持ち」です。ただ、その感情が強く出ていたり、具体的にこの世から去る方法を考えているのであれば、それは”病気の症状のひとつ”である可能性が高いのです。

医学用語では希死念慮(きしねんりょ)、もしくは自殺念慮(じさつねんりょ)と呼ばれ、適切な治療が必要な状態です。

うつ病患者さまの症状のひとつである、希死念慮・自殺念慮。同じ意味で使われることも多い言葉ですが、厳密には細かな違いがあります。

・希死念慮(きしねんりょ)

「死にたい」と強く思いつつ、具体的な方法までは考えていない状態です。
・自殺念慮(じさつねんりょ)

この世から去るための具体的な方法を考えている、もしくは準備を始めた、または準備が完了している状態です。
希死念慮と比べると、自殺念慮はさらに危険性が高いです。

身近な人に「死にたい」と打ち明けられたら、どう対応していいのかわからずに、戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか。「自分の行動が原因で、死にたいと思わせてしまったの?」と自分を責めてしまった方もいるかもしれません。

ですが、外的要因とは関係なく、希死念慮や自殺念慮が出てくることは珍しくないのです。「死にたい」と口にするご本人さえ、死にたい理由がわからずに苦しんでいる場合もあります。

「死にたい理由を知りたい」と思うのは、ご家族としては自然な感情です。その感情自体を否定する必要はありません。

ただ、死にたい理由を必死に探した結果、お互いに疲弊してしまうことは最善とは言えません。ときには、病気の症状で死にたい気持ちが出てくる場合もあると、ぜひ知っておきましょう。

希死念慮と自殺念慮で、表に出てくるサインにそれほど違いはありません。死にたい気持ちが強まっているときに多く見られるサインを、いくつかお伝えします。

・「ずっと眠っていたい」「ここからいなくなりたい」と口にする
・身なりにまったく構わなくなった
・今まで楽しんでいた趣味に興味を示さない
・物を捨て始めるなど、身辺整理を始める
・「今までありがとう」と周囲に感謝を述べる
など

死にたい気持ちが強まっているときは、多くの方はなにかしらのサインを出しています。ただ、周囲がサインに気付けないこともあるでしょう。

「サインを出しているはずだから、自分が気付いてあげなくちゃ」とプレッシャーを抱えると、自分の心身が疲弊してしまうかもしれません。サインに気付いたとき、もしくは「死にたい」と打ち明けられたときにできることを、一緒に考えていきましょう。

家族や大切な人に「死にたい」と打ち明けられたら、または相手の死にたい気持ちに気付いたら、私たちはどうすればいいのでしょうか。

相手の話を否定せずに、きく姿勢を持つ

死にたい気持ちは、誰にでも打ち明けられるものではありません。その気持ちが強いほど、言葉にするには勇気が必要です。「死にたい」と口に出したということは「私の死にたいほどつらい気持ちを、あなたに知ってほしい」ということでもあるのです。

「死にたい」と打ち明けられて、気持ちが動揺するのは当たり前です。大切な人からの言葉であれば、なおさら「どうして、なんで」と詰め寄りたくなるでしょう。または「死にたいなんて言わないで!」と懇願したくなるかもしれません。

ただ、それをそのままぶつけてしまうと、自分の気持ちは理解してもらえない……と相手が心を閉じてしまう可能性もあります。自分の言葉で家族が取り乱す姿を見て、もう死にたい気持ちは誰にも言ってはいけない……とひとりで抱え込んでしまう方も中には存在します。

だからこそ「きくこと」が大切です。「きくこと」は、とても難しいです。ときには相手が口を開くまで、辛抱強く待つ必要もあるでしょう。簡単にできることではないですが、相手がなにを伝えようとしているのか、急かさず、否定せず、ありのままをきく姿勢を持つことがなにより大切なのです。

自殺の話題をタブー化しない

自殺の話題は、家庭内でどうしてもタブーになりがちです。「自殺の話題を出したら、死にたい気持ちがさらに強まってしまうんじゃないか」と不安を感じる方もいるでしょう。

もちろん相手との信頼関係は必要ですが、自殺についてきくことは、相手の死にたい気持ちを理解するうえでとても大切です。むしろ、自殺の話題をタブーにすることで「自分の気持ちは、誰にもわかってもらえないんだ」と気持ちを閉ざしてしまう方もいるかもしれません。

繰り返しますが、大切な人から「死にたい」と言われたら、ショックを受けて、気持ちが動揺するのは自然なことです。ただ、自殺の話題自体を避けても、相手の中にすでに生まれている死にたい気持ちが消えるわけではないことは、ぜひ知っておいてください。

沈黙を怖がらない

相手の言葉を待っているときに、沈黙が生まれることもあるでしょう。「死にたい」の言葉の後でやってくる沈黙は、ご家族にとっても不安が大きいはずです。

どうして黙っているのか、死にたい理由はなにか、自分にできることはないのか。相手にききたいことが、きっといろいろと出てくると思います。

ただ、先述したとおり、希死念慮や自殺念慮は、必ずしも理由とセットで出てくるわけではありません。「理由はないのに、死にたい気持ちが強まっている。どうしたらいいのかわからない」と、ご本人が一番戸惑っている可能性もあるのです。

ただ黙っているだけに見えても、どんな言葉で自分の気持ちを表現したらいいのか、沈黙の中で必死に考えているのかもしれません。「黙っていたらわからないよ!」と急かすのはどうかこらえて、相手の言葉が出てくるのを、焦らずに待ってあげてください。

「なにかいいことを言わないと……」と言葉を探さなくても大丈夫です。希死念慮や自殺念慮が出ているときは、往々にして強い孤独感も一緒に生まれがちです。その場を去らずに、ただ隣にいるだけでも「この人は自分を見捨てないんだ」と安心する方もいるのです。

アイ・メッセージで気持ちを伝える

相手の話をきいている中で、自分の気持ちを伝えたくなることもあるでしょう。

そこで意識したいものが“アイ・メッセージ”です。アイメッセージとは、自分を主語にして気持ちを伝える手法です。反対に、相手を主語にして話すコミュニケーションは“ユー・メッセージ”と呼ばれます。

例文を参考に、ふたつの違いを見ていきましょう。

・アイ・メッセージ(自分が主語)

「死にたいと言われて、(私は)とても心配しているよ。気持ちを話してくれたら、(私は)うれしい。あなたの話を、(私は)ききたいと思っているよ」
・ユー・メッセージ(相手が主語)

「どうして(あなたは)、死にたいと言うの? なぜ(あなたは)、気持ちを話してくれないの? (あなたが)話してくれないとわからないよ」

ユー・メッセージは、追いつめられている方にとっては、ときに自分を責めている言葉に聞こえます。不安や恐怖で頭がいっぱいになっているときに「あなたは、あなたが……」と返答を求められる言葉をかけられることは、負担にもなります。

話し手が主語になるアイ・メッセージは、相手の領域に無理に入り込むことはありません。自分の気持ちを軸にして話すので、相手のテリトリーを守りつつ、やわらかく気持ちを伝えることができるのです。

すぐに対応しないと命に関わる状態だと思ったら、迷わずに専門機関に相談・連絡するようにしましょう。現実になにも起きなかったら「なにもなくてよかった」でいいのです。ご家族の中だけで問題を抱えずに、第三者の手を借りることもとても大切です。

・受診している医療機関がある場合は、すぐに主治医に相談する
・今すぐにでも実行しそうなとき、もしくは暴れるなどして周りにも被害が及ぶ可能性があるときは、迷わずに警察に連絡する

緊急時に速やかに対応するために

緊急時に少しでも気持ちを落ち着かせるために、生活や気持ちに余裕があるときこそ、準備や話し合いをしておくことをおすすめします。

・最寄りの交番の連絡先を電話帳に登録する
・「緊急の場合は、家族はなにをすればいいですか?」と主治医に確認する
・精神保健福祉センターや保健所など、近隣の相談窓口を確認する
・親族や近しい関係の方同士で、緊急時の対応について話し合う

エンカレッジでは「ご相談先・制度一覧」を詳しくまとめています。ぜひ参考にしてください。

家族や大切な人に「死にたい」と言われたら、多くの方はショックを受けるでしょう。それは自然なことで「つらいのは自分ではないのだから……」と、自分の気持ちにふたをする必要はありません。
ここからは、ショックを受けた自分の心のケアについて、一緒に考えていきましょう。

自分の感情を認める

周りのことを気遣い、空気を読んで対応する方ほど、自分とのコミュニケーションが不足している印象です。周りを気にするあまり、自分の気持ちが置いてけぼりになってしまうのでしょう。


まずは、心の中に生まれてきた感情を、自分が認めてあげましょう。死にたいと言ってほしくない、生きていてほしい、そんな言葉聞きたくない、自分だって疲れている、人のことなんて構っていられない。心で思うことに、他人のジャッジは入りません。

「こんなこと思ったらいけない」と、自分の感情を否定すると、気持ちがこじれてしまいがちです。自分の感情を認めたうえで、それを言葉にするかどうかは別の問題として、切り分けるようにしましょう。

自分の相談先を確保する

うつ病患者さまをサポートするご家族は、家庭内で困りごとを抱えがちです。困りごとを共有する場を持つことは、自分の気持ちを穏やかに保つためにも重要です。できれば家庭の外に、複数の相談先を確保するようにしましょう。

・信頼できる友人や親族に相談する
・家族としての困りごとを、主治医に聞いてもらう
・精神保健福祉センターや保健所など、近隣の公的機関に相談する
・家族会や家族教室など、近しい立場の方が集まるコミュニティに参加する

普段の生活で「楽しい」と感じることをメモする

気持ちが落ち込んだときは、どうしても「楽しい」「うれしい」などの気持ちを思い出せなくなります。自分の気持ちを回復させる方法を、普段の生活の中で探しておくことをおすすめします。

「運動すると気持ちがスッキリする」「人と話すとイライラがやわらぐ」など、気付いたことがあればメモしておくのもいいでしょう。“時間やお金がかかるもの“ “すぐに実行できるもの“ “人の手助けが必要なもの“など、ジャンルごとに複数の方法を見つけておくと、候補の中からそのときの自分に合ったものを選ぶことができるでしょう。

時間が流れるのを待つ

ときには、なにをしても気持ちが回復しないこともあるでしょう。そんなときは、ただ時間が流れるのを待つのもひとつの方法です。

時間は、気持ちを冷静にさせるためにとても役に立ちます。動揺していた気持ちも、1日、1週間、1か月、1年……と時間が経過するにつれ、少しずつ落ち着いていくはずです。

冷静になれないうちは、時間が流れるのを待って、淡々と日常生活を送る。なにかを主体的にするわけではないですが、気持ちを安定させるにはおすすめの方法です。

自分の言動で、相手の未来がすべて決まると思わない

家族や大切な人に「死にたい」と打ち明けられた際に「自分の言動のせいで、死にたい気持ちにさせてしまったの?」「自分の行動で、あの人の未来が決まってしまうかもしれない」と考える方もいるでしょう。

相手を気遣って言葉を選ぶことは、コミュニケーションを取るうえで大切ですが、自分の行動が相手の未来を決めてしまう……とプレッシャーを感じる必要はありません。ひとりの人間が取る選択を、自分の言動ですべてコントロールすることは不可能です。

自分の一挙手一投足を気にして疲弊するより、自分を労りながら安定した気持ちで過ごすほうが、うつ病患者さまにとっても過ごしやすい環境と言えるでしょう。

ときには医療機関に相談を

「最近よく眠れない」「食欲がない」など、自分の心身に不調を感じる場合は、医療機関に相談することも検討してください。

不調を無視していると、いつの間にか症状が悪化してしまう可能性もあります。早期回復のためにも「おかしいな」と思ったら迷わずに受診することが大切です。

精神科や心療内科を受診する場合は、エンカレッジ内の「精神科」と「心療内科」はどう違う?病院の選び方は?受診に関するQ&Aも参考にしてください。

Q:「死にたい」と言われたら「死なないで」と言いたくなる。相手の言葉を否定したくないけど、自分を傷つける行為を止めることもいけないの?

まずは「死なないで」と言いたくなる……という気持ちを、自分で認めてあげましょう。大切な人がこの世からいなくなりたいと言っていたら、いなくならないでと伝えたくなるのは自然なことです。死なないでほしいと思う気持ちごと、否定する必要はありません。

また“自分を傷つける行為を止める““相手の気持ちを否定する“は、イコールではありません。気持ちの否定とは、例えば「死にたいと言うなんておかしい」と、相手の言葉を受け取らないことです。

「死にたいと思うくらい、今の状態が苦しいんだね」と相手の気持ちを受け止めたうえで「私は、あなたに死なれたら悲しいよ」とアイ・メッセージで伝えることを意識すると、相手の気持ちを否定せずに、自分の気持ちを届けることができるでしょう。

Q:頻繁に「死にたい」と言われて、相手の言葉を信じていいのかわからない。死にたいと言われ続けて、自分も疲れてしまう。

つらい言葉を繰り返しきいていると、不安ですし、疲れてしまいますよね。
まず、相手の言葉をそのまま「死ぬ」「生きる」の二択で捉えないことです。「死にたい」の言葉の中には、死にたい気持ちの他に、たくさんの感情が詰まっているはずです。

「自分がいる環境に不満がある」「この環境から逃げ出したい」「強い孤独を感じる」「誰かに気持ちを理解してもらいたい」

その「死にたい」の言葉の中には、なにがあるんだろう? 本当はどんなことを伝えたいんだろう? と、生死に関わらない方向から相手の気持ちを想像してみてください。いったん止まって客観的に見つめることによって「死にたい」という言葉のプレッシャーとの距離が取れ、少し楽になるのではと思います。

「死にたい」の言葉の中にあるものを、直接本人にたずねてみるのも選択肢のひとつです。「毎日死にたいと言うくらい、つらいことがあるんだね。例えば、どんなことがつらいと感じるの?」とたずねてみることで、相手の本心が見えてくるかもしれません。

Q:相手の希死念慮に影響されて、自分も死にたいと思ってしまう。どこか遠くに行ってしまいたい。どうしたらいい?

自分も死にたい気持ちになるのは、相手に一生懸命寄り添っているからこそです。まずは、心身が疲弊するほど誰かをサポートした自分の努力を、ちゃんと認めてあげましょう。

そのうえで、自分の心身の状態を、ゆっくりと確認してみてください。眠れているか、食欲に変化はないか、気持ちの落ち込みが継続していないか。がんばりすぎて、自分では気が付かないうちに、なんらかの病気の症状が出ている可能性もあります。

具体的な心身の不調を感じるなら決して自分を後回しにせず、早めに医療機関に相談してください。「自分が倒れている場合ではない……」と後ろめたさを感じてしまうと、心身の回復にも悪影響です。「休息をとるタイミングだった」と考えて、自分を労る意識を持つようにしましょう。

家族や大切な人から「死にたい」と打ち明けられたとき、冷静に、スムーズに対応できる人はきっと多くないはずです。ショックを受けて、動揺するのは当たり前と言えるでしょう。

自分が感じた不安や悲しみ、ときには怒りを、否定する必要はありません。言葉にするかどうかはさておき、生まれてきた感情を否定する権利は誰にもありません。

自分の気持ちを認めたうえで、相手に伝えるか、伝えるとしたらどんな言葉を使うかを考える。心の中に生まれた感情と、口に出す言葉を、きちんと切り分けるようにしましょう。

また、いざというときに少しでもパニックにならないよう生活が落ち着いているときに、対応の仕方や相談先をまとめておくようにしましょう。動揺した自分の心身をケアするために、自分に合ったリフレッシュ方法や気持ちの共有場所を作っておくことも大切です。

必要であれば、公的な制度や支援も積極的に利用しましょう。自分の心身が安定しているからこそ、周りをサポートする余裕が生まれます。体調や気持ちの変化を無視せずに、自分を労る習慣を、ぜひ作ってあげてください。

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<監修>

森本 美花(もりもと みはな)
GKT理事長・精神保健福祉士・公認心理師・2級キャリアコンサルティング技能士 働く人のメンタルヘルスやハラスメント対策、企業や個人のコンサルティングなど、産業保健や人事労務領域を支援している。2011年からゲートキーパー養成に従事し、2014年にGKTの関連団体である特定非営利活動法人日本ゲートキーパー協会の理事に就任。2019年にGKT(特定非営利活動法人日本ゲートキーパーTOKYO)を設立する。

<執筆>

くまのなな

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